あなたへのオススメのすゝめ(2)

こんにちは、ともっとです。

前回:https://overfurotto.hatenablog.com/entry/2021/07/10/083432

前は主に「推薦システム」についての紹介をしましたが、今日は行動経済学の話をしていこうと思います。

行動経済学ってどんな学問?

そもそも経済学が何をしているのか、というところから少し話していきます。
義務教育の中の経済学というと「需要曲線」と「供給曲線」の話が有名でしょうか。これらは財の均衡価格や均衡数量を決めるために使われていた考え方だと思いますが、これはその財に対して多くの人が価値を認めるが故に成り立っています。その上で最も”良い”とされる状態を探しているわけです。

私が持ち合わせているのはミクロ経済学マクロ経済学計量経済学の学部程度の知識ですが、基本的には世の中の経済活動をモデル化し、効率的な状態を求めていく学問だと思っています。予算等の様々な資源の制約の下で最も良い効用を得る(幸せになる)、ということが話の軸にあるのではないでしょうか。微積分を知っている方向けに言うならば、ラグランジュ方程式をはじめとして偏微分を用いた一階条件が高頻出なのもこれが原因であると考えます。
つまり、経済学というのは世の中の理論上の最適を求めている訳です。そのためにはすべての人間や企業があたかも機械のように最適な判断をしていく必要があります。経済学の用語でいうところの「経済人」であるという強い仮定を置いています。あえて過激な言い方をするならば、机の上で現実に近づける努力をしている学問であると思います。

しかし実世界を見た際に、皆が最適のために常に行動しているでしょうか?
人間は必ずしも合理的な行動をしない
これが行動経済学の元になっている考え方です。
行動経済学の具体的な話は知ると人生に活かせるものが非常に多いように思います。ここからの話では具体的な話はあまり出てこないため、参考までに具体的な話を載せておきます。

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ナッジについて

ナッジ(Nudge)を直訳すると、「ひじで小突く」とか「そっと押して動かす」とかそんな意味になります。簡単に言うとこのささやかな変化を元に、結果として大きな結果の違いを生むことがナッジです。

そもそも選択するタイプの意思決定について大きく選択に影響を及ぼす要因は、選択者に対して「何を」「どのように」提示するのか、という2つに分けられると考えられます。前者については選択タスクの構造化ツール、後者については選択オプションの記述ツールに対応して考えられることもあります[1]。
ナッジは「どのように」 の方にフォーカスをあてている訳です。

行動経済学における定義としては、Thaler、Sunstein(2008)によるものが良く使われます。

何かを選択する意思決定において、選択肢を禁じることも経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な形で変える選択アーキテクチャのあらゆる要素

こんな言葉も残っています。

Thaler and Sunstein argue that People often make poor choices and look back at them with bafflement!
(セイラーとサンスティーンによると、人々はしばしば貧しい選択を行い、後で思い出して困惑する)

ナッジの概念は、特定の結果を強要することなく人々がより良い意思決定をするためのツールであるといえます。

元々ナッジは主に個人の健康や財に関する意思決定を対象として研究されていました。有名な具体例として学生が利用する食堂の話があります。学生自身がお皿に盛りつけていくスタイルの食堂において、順路のはじめに野菜を設置することで空腹の学生が多くの野菜を多くとるように仕向けて、結果として健康の促進につなげる、といった感じです。
この際には現実世界上での話が主で、オンライン上でのことは考えられていませんでした。しかし前回話した通り、推薦システムというのは広い意味で言うとこれに近いのではないでしょうか?例えばあなたへのオススメはその選択肢を強制しているわけではありませんし、同時に意思決定に影響を与えています。

デジタルナッジの登場

 ナッジが現実世界でのみの話でなくなったのは、UIの発展に話が絡んできます。UIというのはユーザーインターフェースのことで、「利用者」と「製品・サービス」のつながり全てを指します。スマホの側面についているボタンも、画面に表示されているボタンも、Webサイトの見た目も、全てUIと言えます。

ここまでの話を見ると推薦システムとナッジの二者間の関わりはかなり深そうに見えますが、驚くことにもともと推薦システムはナッジと関連付けられることはほぼありませんでした。これは、UIの水準が成長して人々が推薦されていることに違和感を持たなくなることがナッジの一種として捉えらえるために必要だった、ということではないでしょうか。

実際少し二者で異なる部分もあります。例えば料理のレシピサイトで、ユーザーが健康に良くないような食事を好んでいることを学んでいる場合に、推薦システムであればそのユーザーに好まれることが目的であるから同様に不健康な料理のレシピを提示する可能性が高いです。しかしナッジでは別の目的を達成するために誘導したい、という側面があります。今回の例であれば、ユーザーの健康のために身体に優しい料理のレシピをUIを用いて強調していけるかもしれません。

このように、パーソナライズされた推薦システムに新たな視点としてデジタルナッジの考え方を用いていくことはこれからの社会の利益につながる可能性を秘めています。
この二者の溝を埋めるために書かれた総説論文の内容をこれから書いていく予定です。

つづき→まだ

 

 

参考:
[1] Johnson, E. J., Shu, S. B., Dellaert, B. G., Fox, C., Goldstein, D. G., Häubl, G., ... & Weber, E. U. (2012). Beyond nudges: Tools of a choice architecture. 
Marketing Letters23(2), 487-504.